最高裁判所大法廷 昭和23年(オ)76号 判決 1950年4月12日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人代理人馬淵分也の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりでありこれに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。
第一点について。
憲法二五条は個人が自由なる意思に基づいて締結した契約により家屋明渡の債務を負担しその履行をしない場合に、裁判所がその履行としての家屋明渡を命ずることを禁ずるものでないこという迄もない、なお所論借家法の規定は売買による家屋明渡に適用あるものではないから原審が論旨にいう「正当の理由」について審理しなかつたのは当然で、論旨は理由がない。
第二点について。
原審は上告人の解除権は抛棄によつて消滅したものと認め、従つて上告人の解除の意思表示は効力を生じないものと判定したのであるから契約が存続するものとしたのは当然である、契約が存続する以上所論供託により被上告人の義務は完全に履行されたものとして上告人に家屋の明渡を命ずるのは無論相当で、論旨は理由がない。
第三点について。
原審は所論念書のみで解除権の抛棄を認定したのではない、原判示のような事情の下に右念書記載のような履行期延期契約が成立した事実により解除権は黙示的に抛棄されたものと見たのであつて此見方はあながち実験則その他所論のような法則に違反するものということはできない、従つて論旨は理由がない。
よつて上告を理由なしとし民訴四〇一条九五条八九条に従つて主文の如く判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)